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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)3922号 判決 1973年1月22日

原告 尾崎重夫

原告 尾崎須磨子

右両名訴訟代理人弁護士 福村武雄

同 勝山勉

被告 大西登

右訴訟代理人弁護士 村林隆一

同 高田勇

同 片山俊一

被告 大藪武延

右訴訟代理人弁護士 横田長次郎

主文

一、被告大西登は原告両名に対し各金二、六九八、〇一五円およびうち金二、四四八、〇一五円に対する昭和四五年七月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らの被告大西に対するその余の請求および被告大藪武延に対する請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は原告らと被告大西との間においては、原告に生じた費用の三分の一を被告大西の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告大藪との間においては全部原告の負担とする。

四、この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

(一)  被告らは各自原告らに対し各金六、九一八、八一六円および内金六、四一八、八一六円に対する昭和四五年七月三〇日より支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする、

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら

(被告大西登)

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする、

との判決。

(被告大藪武延)

(一) 原告らの請求を棄却する、

との判決。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  本件交通事故の発生

訴外尾崎重一(当時二一才、以下重一という)は次の交通事故により死亡した。

1、とき   昭和四四年三月二九日午後一〇時一〇分ころ。

2、ところ  滋賀県草津市矢倉二丁目先国道一号線路上。

3、事故車  普通乗用車(ニッサンプリンス・スカイライン、登録番号大阪五わ七〇九号)。

4、右運転者 被告大西登。

5、右同乗者 重一他二名。

6、事故の態様 事故車が道路脇広告用鉄柱に衝突したもの。

7、重一の死因 頭蓋底骨々折のため約二〇時間後に死亡。

(二)  責任原因

1、被告大西登(以下被告大西という)は被告大藪武延(以下被告大藪という)より事故車を賃借し自己のために運行の用に供していた。

被告大西は、右事故車を運転して本件事故現場付近を大津方面から栗東方面へ時速約五五キロメートルで進行中、先行車を追越そうとしたが対向車との衝突の危険を感じて急激にハンドルを左に切ったため、折りから降雨により湿潤していた路面を滑走させて本件事故を惹起するに至ったもので、同被告には前方不注視、追越不適当、ハンドル・ブレーキを操作不適当の過失がある。

2、被告大藪は車の賃貸を目的とする業者(レンタカー業者)であり、事故車を所有する者であるところ、本件事故は被告大藪が被告大西に事故車を賃貸中に発生したものであって、被告大藪は依然として運行供用者の地位にあったものである。

また同被告は被告大西に事故車を賃貸する際、車の保管責任者としてその始業点検ならびにレンタカー業者として当然要求される車の整備上の注意義務を怠り、不注意にもタイヤの摩滅した不良車両である事故車を賃貸し、これがため被告大西の運転上の過失と相まって事故車を滑走させて本件事故に至ったものであるから、被告大藪にも過失がある。

3、以上によって被告両名は各自、一次的に自賠法三条、二次的に民法七〇九条により以下の損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

1、重一の逸失利益

重一は健康な男子で本件事故当時白木金属工業株式会社に勤務し、月に金二二、六一六円の給与と年平均五・三ヶ月分の臨時賞与を得ていたところ、死亡のため得べかりし収益喪失による損害を蒙った。

右逸失利益算出にあたっては、勤務年数による昇給を考慮して二四才までは前記収入、二五才から同会社の定年にあたる五五才までは同会社に現に勤務する各年令層の従業員三名の平均賃金、定年後は同会社の企業年金の支給される六五才まで同年金額をそれぞれ基礎にし、控除すべき本人の生活費については年令による家族構成の変化を斟酌して統計により算出することとして、かくして導き出される純収益から年毎ホフマン式により年五分の中間利息を控除して本件事故から一年経過当時の現価を求めることとして、別紙計算書のとおり計算すると金一一、六七〇、〇二七円が重一の逸失利益損害になる。

2、原告らの相続

原告尾崎重夫、同尾崎須磨子は重一の父、母であるが、重一の死亡により、同人には原告らの他に相続人がいないので、原告らが重一の前記逸失利益の損害賠償請求権を相続分に応じ各二分の一宛相続により承継した。

3、治療費、入院雑費

重一は本件事故直後、済生会滋賀県病院に入院し死亡に至るまで治療を受け、その間治療費として金一五二、六一九円、入院雑費として金一、九五〇円、合計金一六四、五六九円の出費を要したが、原告らがこれを折半して負担した。

4、文書料等

原告らは重一の死亡により、前記病院に死亡診断書料等として金五、一〇〇円、猪川町役場に手数料として金九〇〇円の出費を要し、いずれも折半して負担した。

5、葬儀費用

原告らは重一の死亡によりその葬儀費用として以下のとおり合計金一五七、六五五円の出費を余儀なくされ、これを折半して負担した。

(1) 御布施料    金三一、五〇〇円

(2) 居士改名料   金四〇、〇〇〇円

(3) 葬具等の費用  金二八、四四〇円

(4) 会葬通知賞    金一、二〇〇円

(5) 粗供養代    金一二、〇六五円

(6) 酒魚、菓子代等 金四四、四五〇円

6、慰藉料

重一は近所でも評判の高い親孝行な青年であり、原告らは重一の将来に多くの期待をかけていたのであるが、その矢先、しかも同人の満二一才の誕生日に、同人の責任とはかかわりのない友人の運転する車による事故のため重一を喪ったのであって、原告らの悲しみは筆舌に尽しがたいものである。さらに当時、原告らの生活は裕福でなかったため、重一の収入にたよる所が多く、同人の死亡によって原告らの将来の生活に多くの不安を投げかけている。

以上の事情を考慮し、原告らの精神的苦痛を金銭で慰藉するとすれば各金二、〇〇〇、〇〇〇円をもって相当とする。

7、弁護士費用

原告らは被告らが任意に損害賠償をしないので、大阪弁護士会所属弁護士福村武雄、同勝山逸に対し本件訴訟の提起と追行を委任し同人らに着手金として金一〇〇、〇〇〇円を支払ったほか、本件勝訴認容額の二割以内の謝金を支払うことを約した。そうすると弁護士費用は金一、〇〇〇、〇〇〇円を下らないので、原告らは被告らに対し各金五〇〇、〇〇〇円の賠償を求める。

8、損害の填補

原告らは訴外住友海上火災保険株式会社より自動車損害賠償責任保険金として金三、一五〇、六一九円の支払を受けているので、これを原告らの前記損害費目に按分して充当する。

(四)  結論

以上によって、原告らは、被告らが各自原告ら各自に対し金六、九一八、八一六円およびうち弁護士費用を除いた金六、四一八、八一六円に対する本件損害発生の後であり訴状送達の日の翌日である昭和四五年七月三〇日より支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告ら共通)

請求原因(一)の事実はすべて認める。同(三)の事実中、原告らと重一の身分関係は認めるも、損害額については争う。なお重一の逸失利益の算出にあたっては、得べかりし収入の中から所得税、市民税、社会保険料および退職年金の積立金が控除されるべきである。また総損害中より、重一死亡後に白木金属工業株式会社より原告らに支払われた金員および厚生年金給付額等を控除しなければならない。

(被告大西)

請求原因(二)1の事実中、「急激にハンドルを左に切った」との点は否認し、その余は認める。

(被告大藪)

請求原因(二)2の事実中、被告大藪がレンタカー業者であり、事故車は同被告の所有にかかるものであって、本件事故は事故車を被告大西に賃貸中に発生したものであることは認めるが、その余は否認する。なお、本件交通事故は被告大西の一方的過失に基くもので、被告大藪には車の管理、賃貸に関し何らの過失がない。

三、抗弁

(被告大西)

(一) 過失相殺

本件交通事故は重一の誕生日を祝うドライブ旅行中に生じたもので、事故車の賃借料は被告大西と同乗していた友人二名とが分担していた。しかも、当日は雨が激しかったので被告大西は旅行を中止しようとしたが重一が自分の誕生祝だから是非とも行こうと切望したので止むなく右旅行を決定した次第である。これらの点よりすれば重一は好意同乗者と解すべきである。

また本件事故の原因である追越しを開始したのは、同乗していた重一の示唆ないし黙認もその一因をなしている。

本件損害賠償額の算定にあたってはこれらの事情を斟酌して相当の過失相殺がなされるべきである。

(二) 弁済

被告大西は本件損害賠償として原告らに対し一人あたり金四〇五、〇〇〇円合計金八一〇、〇〇〇円を弁済ずみである。

1、昭和四五年二月一〇日 原告各自に対し金五〇、〇〇〇円

2、同年八月一七日 原告各自に対し金一五〇、〇〇〇円

3、同年一二月二五日 原告各自に対し金一〇〇、〇〇〇円

4、昭和四六年一月末日より昭和四七年二月末日まで 原告各自に対し毎月金七、五〇〇円、原告各自に対し合計金一〇五、〇〇〇円

(三) 債務名義の作成

被告大西は原告両名との間に、昭和四五年九月二四日被告大西が原告両名に対し損害金の一部として金一一〇万円を支払う旨合意し、大阪法務局所属公証人十河清行作成更第六四五四二号損害賠償示談契約公正証書により、右金額を支払う、万一弁済期に支払わないときは執行を受諾する旨の意思表示を同公証人になした。そして、そのうち八一万円については履行ずみであるから、残額二九万円については給付請求権を有する。したがって、その範囲については訴の利益をかいている。

(被告大藪)

仮りに被告大藪に本件損害賠償義務が認められるとしても、本件事故は事故車を賃借し、これを運転した被告大西の追越ハンドル操作不適当の過失に基因しているものであるから、同乗していた重一の、かかる者に運転をまかせ、無暴な運転を阻止しないまま放置した過失は重大である。そこで本件事故の状況に照らし、一〇〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。

四、抗弁に対する認否

被告大西の抗弁(一)の事実中、重一が被告大西の追越開始を示唆ないし黙認したとの点は否認する。同抗弁(二)の事実は認める。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、本件交通事故の発生

請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二、責任原因

(一)  被告大西の責任

1、自賠法三条の責任

被告大西が被告大藪から事故車を賃借りし自己のために運行の用に供していたことについては当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すれば、本件事故は、重一および被告大西等親友八名が重一の誕生祝いを兼ねて計画した自動車旅行のために、右八名の者が被告大藪から事故車外一台の自動車を共同出費して賃借し、これに四名ずつ分乗して交互に運転しながら(豊中インターチェンジから大津インターチェンジまでの間の名神高速道路においては重一も無免許のまま運転した)、大阪から福井県東尋坊方面へのドライブを楽しんでいた最中に発生したものであることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実関係に徴すれば、本件事故当時、事故車は重一らの共同の支配下にあり、且つ同人らの共通の利益のために運行の用に供されていたものというべく、従って重一自身事故車の運行供用者に該当し、自賠法三条の他人に該当しないものと解するのが相当である。従って原告らの被告大西に事故車の運行供用者責任がある旨の主張は採用し得ない。

2、一般不法行為責任

≪証拠省略≫によれば次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 本件事故現場は、北東から南西に直線に伸びるアスファルトで舗装された車道部分の幅員八メートル(中央線によって区分されているので片側四メートル)の平坦な国道一号線と北北東から南南西に通ずる直線道路とが×字型に交差する通称野路交差点付近である。本件事故当時は雨が降っていたため路面は濡れており、また国道上は一三〇メートルほど前方を見通せる程度であった。

(2) 被告大西は重一ら三名の同乗する事故車を運転して国道一号線を北東の方向に時速約五〇キロメートルで走行し本件事故現場付近にさしかかったころ、先行する仲間の自動車と自車との間に、大型貨物自動車が進路前方約五〇メートル附近を走っていたので、これを追い越して仲間の先行車の直後に追従しようと考え時速を六〇ないし六五キロメートルに加速して対向車線に入り約二五〇メートルほど進行して右大型貨物自動車の右後方に並びかけたとき、折りから対向して来る自動車のヘッドライトを発見し、これと衝突する危険を感じたので、ハンドルを左に切って衝突を避けようとしたところ、事故車がスリップして横滑りの状態で左斜めに滑走しはじめたので、急拠ハンドルを右に転把しようとしたがスリップのためハンドル操作がきかず、事故車はそのまま滑走して前記交差点から北北東に伸びる県道脇にある広告照明灯鉄柱に右後輪部付近を激突させるに至ったものである。

右認定事実によれば被告大西は進路前方の見通しが悪く、しかも路面は濡れていてスリップしやすい状況であったにもかかわらず、あえて対向車との衝突の危険を発生させまたスリップを生じやすい加速および追越運転をした点に過失があるというべきである。

よって被告大西は民法七〇九条により原告らの損害を賠償する義務がある。

(二)  被告大藪の責任

1、自賠法三条の責任

被告大藪がレンタカー業者であり、事故車が同被告の所有に属し、これを大西に賃借中に本件事故が発生したものであることについては当事者間に争いがない。

ところで、前示(一)1認定の事実関係に徴すれば、被告大西のみならず重一も事故車の運行供用者に該当し、自賠法三条の他人に該当しないものと解するのが相当であるから、仮りに本件事故当時なお被告大藪が事故車の運行供用者であったとしても、被告大藪は重一の死亡による損害につき、自賠法三条による責任を負わないというべきである。従って原告らの被告大藪に事故車の運行供用者責任がある旨の主張は採用し得ない。

2、一般不法行為責任

原告らは本件事故はタイヤが摩滅した整備不良車たる事故車を貸付けた被告大藪の過失に基くものであると主張しているので、これについて判断する。タイヤの摩滅についてはこれに符合する証拠もあるが右証拠は≪証拠省略≫に照らしにわかに信用できず、他に事故車が運転に支障を来たす程度の整備不良車であったと認めるに足りる証拠はない。結局同被告は本件事故につき民法七〇九条の責任を負う旨の原告らの主張は採用し得ない。

以上のとおりであるから被告大藪は本件事故による重一の損害につき賠償義務を負わない。

三、損害

(一)  重一の逸失利益

≪証拠省略≫によれば、重一は昭和二三年三月二九日生れの死亡当時満二一才の独身の健康な男子であり、高校卒業後昭和四一年に白木金属工業株式会社大阪工場に熔接工として勤務し、事故前三ヶ月は平均月収金二二、六一六円、昭和四三年度の年間賞与金一二六、六八一円(基準内賃金二二、七七〇円の五・三ヶ月分プラス金六、〇〇〇円)の給与を得ていたことが認められる。

ところで原告らは重一の逸失利益を算定するについて将来の昇給を考慮した算出方法を主張している。もとより裁判所は給与所得者の逸失利益の算定にあたっては被害者の年令、勤務年数、勤務先の経営の安定性などをもとに総合的に判断し、当該被害者が仮りに生存していたならば右勤務先に将来とも就職したであろうことが高い蓋然性をもって認定しうるときはその給与体系をもとに昇給をも考慮した算定方法をとることが適当な場合もあるが、右蓋然性に疑いがある場合、被害者側にとって控え目な算定方法が採用されざるを得ないことは逸失利益損害の性質上やむを得ないところである。

右観点から重一の逸失利益損害について考えてみると同人は前記認定のとおり若年であり、白木金属株式会社に就職してわずか三年を経過したにすぎないものであるから、事故当時はいまだ同会社に定着し安定した地位にあったとは言い難い面があるので同人が同会社に定年まで就職することを前提として同会社の給与体系をもとに昇給や定年後の年金までも考慮に入れた算定方法はその蓋然性に疑いがあって相当でないと言わざるを得ない。

しかしながら他方重一の前記給与を前提とし、同人の就労可能な全期間にわたって右給与を固定して逸失利益を算定することはその後の社会全般の給与水準の上昇等に鑑みるとき、逆にまた重一の逸失利益を不当に低く評価することとなって相当でないと思われる。

ところで労働省労働統計調査部編による昭和四六年度の賃金センサス(第一巻、第二表、二二頁)によれば同年度における二〇才から二四才までの高卒男子の全産業労働者の平均給与は月収金五三、三〇〇円、年間賞与金一五六、九〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実である。そして重一がもし生存していたならば右年度頃は同程度の給与を得ていたであろうことは統計資料の性質からみて相当程度の蓋然性をもって推量される。(ちなみに≪証拠省略≫によれば重一が前記会社に勤務していたとしてもベースアップ等によって右年度頃には右程度の給与を得ていたであろうことがうかがわれる。)そこで同人の逸失利益の算定にあたっては他に確実な証拠資料のない本件において同人の前記給与ならびに右統計平均賃金を基礎として計算することが控え目かつ蓋然性のある方法としてもっともふさわしいと言うべきである。

重一の就労可能年数については同人の死亡当時の平均余命が四九・二五年であることに鑑み、その範囲内で満六三才までとし、また控除すべき生活費は同人が独身であることから収入の二分の一とするのが相当である。

しかして、重一の逸失利益は二一才から二三才(昭和四六年)までは前記現実収入を基礎に、二四才から六三才までは前記統計賃金を基礎にして年毎ホフマン式計算法によりそれぞれ年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を求めると金八、三三四、一三四円となる。

計算 21才~23才(22,616円×12ヶ月+126,631円)×1/2×2.7310=543,568円

23才~63才(53,300円×12ヶ月+156,900円)×1/2×(22.293-2.731)=7,790,566円

合計 543,568円+7,790,566円=8,334,134円

(二)  原告らの相続

原告らが重一の父、母であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば重一には原告らの他に相続人がいないことが明らかであるから原告らが重一の前記逸失利益損害賠償請求権を各二分の一宛相続により取得したこととなる。

(三)  治療費、入院雑費

≪証拠省略≫によれば重一は本件事故後済生会滋賀県病院に入院し死亡に至るまで手術等の治療を受け、そのため治療費として金一五二、六一九円、入院雑費として一、九五〇円、合計一五四、五六九円の出費を要し、これを原告らが折半して負担したことが認められる。

(四)  文書料等

≪証拠省略≫によれば、原告らは重一の死亡により前記病院に死亡診断書料等として金五、一〇〇円、猪川町役場に手数料として金九〇〇円の出費を要し、いずれも折半して負担したことが認められる。

(五)  葬儀費用

≪証拠省略≫によれば原告らは重一の葬儀関係費用として原告らの主張のとおり原告らは金一五七、六五五円の出費をなしこれを原告ら各自が折半して負担したことが認められる。

(六)  慰藉料

重一の死亡により原告ら両親の蒙むった精神的苦痛が極めて大きかったことは想像するに難くないところ、さらに本件全証拠によって認められる諸事情を考慮し、原告らの精神的苦痛を金銭でもって慰藉するとすれば各金二〇〇万円が相当である。

(七)  損害合計

以上によれば本件事故によって原告らに発生した損害は相続分も含めて各自合計金六、三二六、一七九円となる。

四、過失相殺の類推適用

≪証拠省略≫を総合すれば、本件事故は重一ら親しい仲間八名が、同人の誕生祝いをかねて、以前から計画していた大阪から福井県東尋坊方面へのドライブ旅行の途中で起ったものであり、これに用いたレンタカー二台の賃借費用等は右八名で共同負担し、その運転は、右八名のうち運転できるものが交代してこれにあたり事故車については滋賀県石山寺付近において訴外大西晶信から被告大西が運転を交代して事故現場まで来たものであること、本件スリップ事故の一因となった雨は本件ドライブ旅行に出発する時(当日午後七時半頃)から既にかなり激しく降っており、前方の見通しは良好とは言えず、路面も湿潤状態にあったこと、他の賃借車両と事故車との間に大型車両が同方向に走行中であり、事故車は大型車両を追い越して他の賃借車両に追いつこうとしたことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。右事実関係に徴すれば、本件自動車旅行に出発し継続することについては重一らの少くとも黙諾があったことや、本件事故の原因となった先行車両の追越運転につき事故車に同乗していた重一らの少なくとも暗黙の了解があったことを推認し得るところである。そうすると、本件事故の発生については、その直接の原因が被告大西の前記過失行為に基因するとはいえ、本件運転行為の目的が重一ら同乗者の共同の娯楽のためであったこと、および重一も事故発生の危険性について予知しえかつ予防しうる立場にあったにもかかわらずこれを放置したことなどを考慮すると被告大西だけを一方的に非難し前記損害の全額を被告大西に一方的に負担させることは公平の原則にてらし相当でないというべく、結局民法七二二条二項の過失相殺の法理を類推適用して、被告大西が原告らに賠償すべき額は重一の側の前記諸事情を斟酌し前記損害のうち七割の額をもって相当と思料する。そうすると原告らが被告大西に対して損害賠償を求むべき額は各自金四、四二八、三二五円となる。

五、損害の填補

弁論の全趣旨によれば原告らが本件事故による損害につき自賠責保険金として金三、一五〇、六一九円の支払いを受けていることが認められるので、これは原告らの前記損害に按分して充当されることとなる。

六、弁済等

原告らが本件事故による損害につき各自金四〇五、〇〇〇円の弁済を受けていることは当事者間に争いがないので右金額は前記損害賠償額に充当されることとなる。

次に、被告大西は、すでに執行名義を有する金額に相当する損害賠償請求権の部分については、訴の利益を欠くというけれども、右の執行名義が、いかなる損害費目を前提として作成されるにいたったかについては、同被告において何ら明らかにしないので、原告らにおいて、後日の紛争を避ける意味合いにおいて、全債権額について訴求する実益を有するというべきであるから、同被告の主張は採用することができない。

七、弁護士費用

≪証拠省略≫によれば請求原因(三)の7記載の事実が認められる。そこで、本件事案の内容、審理の経過、前記損害認容額等に照らし、原告らが被告大西に対し本件事故による損害として被告大西に賠償を求むべき弁護士費用は各金二五万円が相当である。

八、結論

よって被告大西は原告らに対しそれぞれ金二、六九八、〇一五円およびうち弁護士費用を除いた金二、四四八、〇一五円に対する本件不法行為の日の後であり、本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四五年七月三〇日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの被告大西に対する本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、原告らの被告大藪に対する本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用し、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本井巽 裁判官 斎藤光世 伊東武是)

<以下省略>

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